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虫歯② 虫歯と歯髄
前回、当院の歯科衛生士から虫歯の原因についてのお話がありました。
今回は、歯科医師・上谷が虫歯の治療方法、特に歯髄(歯の神経)と虫歯の関係について説明します。下の方に症例紹介もありますので、是非ご覧ください。
C0…表層下脱灰(虫歯の出来始め)
C1…エナメル質に限局した虫歯
C2…象牙質にまで達した虫歯
C3…歯髄(神経)にまで達した虫歯
C4…歯冠部分の崩壊が起きている虫歯
虫歯は上記のように分類されます。実際に治療が必要になるのは、C1から上の虫歯になります。C3以上の虫歯に関しては、歯髄(神経)に到達していますので、神経の治療が必要になります。歯がC3状態になると、自発痛や温痛が起こります。このような場合、冷たい飲み物や冷水でのうがいで痛みが緩和されるようになります。
虫歯の症状は人それぞれですが、基本的には、C1やC2の初期段階では、ほぼ無症状もしくは冷水が少ししみるくらいの症状ですが、C2が進んで虫歯が歯髄に近づく(C3)につれて、冷水や甘いものがしみるようになります。そこまで進んでいても無症状の方もいらっしゃいます。
今日は、そのC2とC3の間の虫歯の治療についてお話したいと思います。
歯髄(歯の神経)には、様々な役割があります。
・歯牙の感覚を司る(痛覚)
・口腔上皮細胞を分化させ、エナメル形成を行う=歯の活性化
・象牙質の養成・産生する=歯の活性化
・修復象牙質(第二象牙質:歯の免疫反応)を形成する
など…
※ 真ん中に写ってる歯の右側に大きな虫歯があります
※ 歯の中心にある黒く抜けているのが神経です
※右にある歯は既に抜髄処置を受けています
「この虫歯は大きい」
歯医者さんで虫歯治療を受けたことがある方は聞いたことがあるかもしれません。
何を診て、大きい・小さいを計っているのか...。それが歯髄(神経)との距離です。
虫歯が大きい=神経に近いという意味です。歯髄の形は人それぞれで異なりますので、虫歯の量が少なくても、大きい虫歯になることもあります。
歯髄は、決してなくなってもいい器官ではありません。ただし虫歯が歯髄に到達した場合には、取った方がいい器官でもあります。抜髄処置(神経を取る治療)は日々進歩しており、抜髄処置を受けた歯も、しっかり治療すればまた他の歯と同じように使える技術があるからです。
ただ、なるべくなら取らない方がいい器官でもあります。歯の活性化・歯を元気にする器官であるからです。
C2とC3の間の治療は、歯髄の保存可否がとても重要な項目になります。麻酔をして、虫歯を取ったあとの神経の保護方法や材料について説明します。当院では、歯髄との距離で分別して、神経保護の基準を設けています。
①歯髄との距離:2㎜以上
歯髄までの距離が2㎜以上ある場合は、ほぼ安全と言えます。コンポジットレジン(樹脂)の充填ならそのまましても問題ないでしょう。型取りをして銀歯やセラミックを詰める場合は、アンダーカット(虫歯部分を取った凹みの部分で、上手く型取りができない)を樹脂やセメントで詰めて、型を取ります。
②歯髄との距離:2㎜以下
歯髄までの距離が2㎜以下の場合は、神経の保護の薬剤使用が必要になります。また治療後の知覚過敏が予想されるため、アンダーカットの部分には知覚過敏抑制の効果のあるセメントを使用する場合もあります。
《神経の保護に使う薬剤》
・充填用グラスアイオノマーセメント
充填用グラスアイオノマーセメントは、歯質接着能や優れた封鎖性があり、二次虫歯を予防します。またフッ素除方性による歯の強化も期待できます。
・キャビオス
低刺激性レジンとα-TCP(リン酸カルシウム)を配合し、生体適合性が良く、優れた歯髄保護効果を期待できます。
・水酸化カルシウム
強アルカリ性による抗菌作用と歯髄刺激による修復象牙質形成作用を併せ持ちます。非常に歯髄に近い場合やわずかに露髄(髄角の一部と交通)した場合などに用います。
・MTAセメント(保険適応外 ¥5,000〜 / 虫歯の大きさによって異なります)
ケイ酸カルシウムを主成分とし、保険適応の水酸化カルシウムより、生体親和性が高く、抗菌性や封鎖性・石灰化促進作用・抗菌作用にも優れている革新的な材料です。
しかしながら、髄角といって、人によっては歯髄の一部分だけが極細く発達している方がいらっしゃいます。髄角は、レントゲンでも一部分しか写らず、診断や神経保護の判断が非常に難しい場合がほとんどです。その場合は神経の保護が上手くいかない場合もあります。また、虫歯を取る際の歯髄刺激や治療後の知覚過敏などにより、歯髄炎(神経に炎症が起こる)になることもあります。このような場合は、治療後に自発痛や温痛をきたし、神経の治療が必要となる場合もあります。
治療後に「今日は神経の保護をしましたので...」と担当医から説明があった場合は、治療後の痛みに充分にご注意ください。もし麻酔が切れたあとに、自発痛(なにもしていないときも痛い)がある場合には、鎮痛剤を服用してください。また、次の予約日まで我慢せず、速やかに来院してください。
【 症例紹介 】
写真の真ん中の第一大臼歯と右の第二小臼歯の間に虫歯があります。また小臼歯にはレントゲンで銀歯の中に歯髄に近接している虫歯を確認しました。
真ん中の第一大臼歯は水酸化カルシウムで神経の保護を行いセラミックインレーを詰めました。
右の第二小臼歯は、露髄したために抜髄処置を施行し、中にファイバーコア、上部にはジルコニアオールセラミッククラウンを選択しました。左側の第二大臼歯は虫歯が小さかったので、レジン充填を選択しました。
※1 E-maxセラミックインレー/¥50,000
※2 ジルコニアオールセラミッククラウン/¥120,000〜
※3 銀歯(金銀パラジウム合金)/保険適応
われわれ歯科医師は、EBM(根拠に基づく医療)とMI(最小限の侵襲)を大前提に医療を提供しています。『保存できる可能性のある歯髄=残すべき歯髄』であると考えています。たとえその保存した歯髄が短い期間で抜髄処置が必要になったとしても、EBM(根拠に基づく医療)とMI(最小限の侵襲)に沿った診療であると思っております。治療前の説明やインフォームドコンセントはもちろん、治療中や治療後にも、なにかご不明な点がございましたら、遠慮せずお申し付けください。
歯科医師 上谷雄太